前立腺肥大症の薬物療法で、中心的に使われているのは「α1遮断薬」「5α還元酵素阻害薬」「PDE5阻害薬」で、私たち泌尿器科医はより患者さんに合った薬の選択を考えて治療を行っています。実際、60歳から薬物療法を始め、死ぬまで薬で治療できるケースが多い。もちろん、一時的に薬をやめることができる患者さんもいます。逆に、悪化してしまうケースも少なくありません。では、どのような状態になると次の段階の「手術」を選択することになるのか――。
薬物療法を行っても患者さんによっては限界があり、「尿閉」を起こしてしまうケースがあります。閉尿とは、尿がまったく出ない状態。このような場合は、手術を選択すべきだと思います。また、尿の勢いが弱くなり残尿が増え残尿が100㍉㍑以上になってくると、やはり手術を考えます。それ以外にも、「膀胱結石ができた」「肉眼的血尿」「尿路感染を繰り返す」場合は、手術の適応になります。また、薬そのものの副作用によって薬を服用できない場合も、手術を選択することになります。
他の疾患の場合は「手術!」と言われても、手術以外を選択する患者さんは多くみられます。しかし、尿閉を経験した前立腺肥大症患者さんでは手術を希望されるケースが多い。これは、尿閉によって尿道からカテーテルを入れっぱなしにされ、元気なのに自分で排尿ができなくなってしまうと、人間の尊厳が失われてしまうからだと私は思います。自分で排尿ができるようにするために、私は手術を行っています。
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医 加藤忍